スペインの真昼、光の中に闇を視た男、幻覚だろうか、そこに現れる幻像をゴヤは描いていた。乾板に焼き付いたネガティーブの現実を投写した。人間についての、社会についての失意、虚妄の栄光に決別して闇を視る人へ、「巨人」と「我が児を喰らうサトゥルヌス」、巨人にもサトゥルヌスにもゴヤ自身が投影されている。だがそれよりも、「創造主は自ら創った人間の悲惨を嘆き、その愚かな姿に遂には狂人と化し・・・喰べてしまった」。この単純なイメージに創造主と人間の関係を暗喩したのかも知れない。神はよかれと思って【人間】を創られたであろうに。人間の救いようもない愚行は神を狂わせてしまった。
この二点の作を観ていると僕には、スペインの荒野に展に向かって拳を上げ一人慟哭する人間ゴヤを見る想いにとらわれる。
抒庵