Sculptor Eiji Nitahara

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奈良、興福寺南円堂にて

          早朝、大阪の宿を発って真っ直ぐ此処へやってきた。雲の低くたれる寒い冬日だった。

          風が鳴る。梢にも軒下にも、落葉の木立の庭に一頭の雌鹿がたむろしている。少しずつ目を移すと二面を囲む黄土色の土塀の瓦屋根が竜の背のようにくねっている。傾いた土塀を等間隔でくぎる木の柱がどれもこれも朽ちかけていて、この空間に誰か忽然と現われてくる様な気配が漂う。ドキリとして足を停める。土塀の脇か軒下か、それとも木立の脇か軒下か、それとも木立の辺りか雑草の蔭か。確かに誰かが居て不意の闖入者をうかがっている。居ない。誰だろう。ここに昔から棲みついている霊なのか。鳩が二羽、目の前に舞い降りてきた。風が急にやんで梢の葉枝の間で灰色の空が低く甘く悲しい。また風が立つ。葉が鳴る。  

抒庵

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彫刻家二田原英二公式ホームページ