遺跡とはかって形があって生命が宿り固有の時が流れていたものの残影である。美しい廃虚もあれば醜悪なものもある。生命体の固有の時は去り悠久の時に席をゆずる。その「時」は、やがて風雪と共に生命体として在ったものの表層を取り払い洗い出し、隠れていたものを露わにしていく。
廃虚に立つ時、時として昔日の面影は明晰な程に陰陽を際立たせて現れる。香ぐわしく何か生命の息吹すら孕んでいる。なつかしいほどの残香なのだ。そして洗い出された生命の名残は幻像に宿り、もう一つの形象に結ばれるのを待ちうける。
抒庵