何かに促されたイメージだったのか、或いは夢だったのか。朝の心地よいまどろみの岸辺に不思議な光景を観ていた。
風船が浮かんでいた。風船は豊満で生物の様に周囲の風景を呑むように吸収していた。樹木や家屋や空や海までも。こうして目に見えるありとあらゆる物象を吸収し尽しながら急速な凝集が起こっていた。風船自体が凝縮していた。ほとんど目に見えない程の点に近ずきながら周囲は果てしなく白い空白となっていた。点はやがて視野から消えてしまった。
ある臨界点に達したのだろう。その瞬間驚くべき何かが白の空間に発生した。空前絶後の風景である。輝くような光が零と思われるその虚空の一点に発生した。それは次の瞬間、球の形状となって急激に膨張し始めた。よく視るとその球の表面にあの風船の内側に吸収され零に近く凝積されてしまったと思われた総てが、新しい徴しとなって出現してきた。やがて像形へと変貌していく。新しく整った形象!それはエーゲ海の泡から生まれた大理石の白鳥のようであった。否、昨年京博で出逢ったあの伝蛇足の白鳥が朝のまどろみの岸辺に帰って来ている。
抒庵