彼の目の前に顕れる世界が 実際に其処に在ろうと無かろうと 結局は未だ目に見えない形を与え求めて模索する。それは造形の営為であるだろう。それは彼の心を過ぎる記憶の影であり夢であり映し出される幻像である。時として其処に潜み栖まう神であり音の調べであるだろう。「Oh、My Manhattan」は岸壁に屹立し虚空に向かってひとつの文明を主張するN・Yの彼の心に与えたインパクトであり「縹舞去来」は今に住まい、いずれ彼岸へ流転する生命の心に映じた思いであり、又「城砦(とりで)の女」達は失われた時の廃墟に住まい再生を夢見る昔日の佳人の面影であるだろう。「巫女」は忽然と現れ予言の眼差しを送る。「佐保」は巡りくる春を舞う。此の世を夢舞台に去来する生命たち、こうして彼の心の鏡は目に見えない何か、存在の不可思議の明晰な像に結ばれるのを待ち続ける。
大いなる創造主は自らが創り続ける自らの不思議な姿を彼の心の鏡に映し出したいに違いない。そして若しかしたら彼は、それが創造主と人間の始原の黙約であったのではないかと秘かに気付いているのかも知れない。
抒庵